重要なのは、働き手の拠点の確保~特定地域づくり推進法を活用した担い手のありかたとは?~
鹿児島県和泊町
今回は金城 真幸さん、永山 みさ子さんに
お話を伺いました
写真左から>永山 みさ子さん、金城 真幸さん、平野 彩音
シリーズ「空き家に関わるプレーヤーたち」。今回は、鹿児島県和泊町(沖永良部島)の金城 真幸さん(えらぶ島づくり事業協同組合事務局長)と、永山 みさ子さん(和泊町役場 移住定住相談員)を取材。
沖永良部島の空き家課題や解決策などについてお伺いしました。また特定地域づくり推進法を活用して移住者を呼び込む姿にも密着。本編で詳しく解説します。
地域の空き家を活用しながらえらぶ島づくり事業協同組合が描く未来の姿とは?
特定地域づくり推進法を活用し、担い手が年間を通して安定して働く場を創ることが課題解決の一歩
平野(モデレーター:以下、省略):まず金城さんが立ち上げられた「えらぶ島づくり事業協同組合」に関してお話しいただけますか?
金城さん(以下、敬称略):簡単に言いますと、沖永良部島の人材不足の事業者に、必要な時期に人材派遣をする組合になっています。
金城 真幸(きんじょう まさゆき)さん:えらぶ島づくり事業協同組合事務局長/鹿児島県和泊町在住。神奈川県横浜市出身。総務省の地域おこし協力隊制度を活用し、4年前に奄美群島沖永良部島の和泊町に移住。2020年3月まで役場で集落支援・古民家改修、そして移住者支援、また、観光による地域活性化や農家支援に取り組んできた。現在は島の人材不足の事業者に対して必要な時期に人材確保ができる特定地域づくり推進法を活用した特定地域づくり事業協同組合制度を利用し、えらぶ島づくり事業協同組合を設立し活動中。
金城:総務省の特定地域づくり推進法を活用した、特定地域づくり事業協同組合制度*1を利用しています。
1*2020年6月に施行された制度で、地域人口の急減に直面している地域において、農林水産業、商工業等の地域産業の担い手を確保するもの。例えば地域の企業が時給600円出すと、もう半分を地域と国が出すもの。
総務省ホームページから
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/tokutei_chiiki-dukuri-jigyou.html
金城:島の事業者には、20〜30代の働き盛りの若者が不足しており、人材不足や後継者不足といった課題が浮き彫りになっております。
また、島の基幹産業である農業は、農繁期と農閑期の差が激しく、通年で人を雇用することは事業者にとってリスクとなります。一方で働き手としても、年間を通して安定した仕事がないために、季節労働者的に地域を渡り歩いている方も多いのが現実です。
こういった状況を解決するために、組合を設立して、島内の事業者の季節ごとの労働需要に応じて人材を派遣し、年間を通じて安定した雇用を生み出し、働き手にも安心して働ける環境を提供するシステムです。
例えば、農家さんの繁忙期が10月~4月までの期間なので、そこへ行ってもらう。5月~7月までの期間は観光業が忙しくなるので、ホテル業へ。8月~9月までの期間は、総合スーパーへ行ってもらうというようなマルチワーク形の新しい働き方です。
派遣職員の給料は国と自治体から財政支援を受けられるので、安定した賃金を保証出来ます。その制度が2020年の6月4日から施行されて動き始めたところで、地域外からどんどん担い手を呼び込む絶好のチャンスだと考えました。
平野:なるほど。では、現在の活動状況はどのような感じでしょうか。
平野 彩音(ひらの あやね):大正大学 地域創生学部2年 町おこしロケーションタイムス インターン/三重県松阪市飯高町出身。三重県立飯南高等学校在学中に空き家片付けプロジェクトなどに取り組み、卒業後も地域と関わりを続けて空き家問題などの地域課題に取り組んでおり、その活動が注目され、「地域人(地域構想研究所 地域人)71号」で取り上げられる。最近はweb「空き家活用特集」での情報発信も行いながら、町おこしロケーションタイムスの空き家に関わるプロジェクトに参画中。
金城:組合の方には現在、農家さんや総合スーパー、一般診療所、介護福祉事業、それからホテル・旅館業、食料品製造業など、さまざまな事業者さんに加盟していただいています。 今年の7月1日から事業を開始させていただいて、求人募集をかけているところです。
正規雇用としてまず8名採用する予定のところ、内定者は現在7名で皆さん移住者の方です。 派遣される方と事業者さんのマッチングはとても大切だと思っていて、適性を見て行なっています。
平野:島で暮らしたい人が、安定して暮らしていける形を提供するということでしょうか?
金城:はい、その通りです。しかしながら、この事業は町の財政負担もあって恒久的にやっていけば当然、町の負担も増えていきます。
今はスタートの段階なので、組合の労働者派遣事業をしっかりやることが大切だと考えておりますが、最終的には組合が自立して運営していけるように地域貢献型の事業展開も視野に入れて挑戦していこうと考えております。
平野:特定地域づくり推進法を活用したさらにその先のビジョンを見据えているのですね。
空き家活用推進事業で物件の利活用を加速させることが第一
平野:移住者の方が来られるとなると、住まいも必要になってきますよね。和泊町の空き家の状況に関してお伺いしたいです。
永山さん(以下、敬称略):和泊町には21集落があって、2年に1度、集落の区長さんと一緒に空き家調査をしています。
永山 みさ子(ながやま みさこ)さん:和泊町移住定住相談員/鹿児島県和泊町出身。東京からUターンし、「和泊町まちづくり協力隊」として空き家プロジェクト活動にも携わる。現在は和泊町役場で移住定住相談員の仕事をしながら、和泊町にある21集落の区長さんと協力して空き家の調査も行なっている。
永山:1年半前に第2回目を行ったのですが、その時は320軒の空き家がありました。調査に行く時は、区長さんと役場の土木課の職員と3名で行きます。
土木課の職員と一緒に物件を実際に見て、レベル分けをした調査をしています。レベル1~3は改修して使える物件、レベル5までいくと危険家屋になります。
レベル3までの家屋の所有者を、行政のほうで特別に申請して、所有者がどこにいるかを調べます。その上で、「住まい不足で困っているので、物件を貸していただけませんか」と、意向調査をさせていただいてます。
物件を貸したい方は第1回目の調査時よりは増えてきているのですが、島外にいらっしゃる方や高齢者が大半で、改修費の捻出がネックになっている方も多いです。 そこで昨年度から、改修費の3分の2を町が負担する「空き家活用推進事業」を作りました。
昨年度はモデル的に2軒行い、今年度からは本格的にその事業が始まっています。 レベル1〜3の使える空き家に関しては、全体320軒に対して4割ほどです。
平野:和泊町に空き家バンクがありますよね。登録する物件は、家の中を空の状態にしないといけないのでしょうか?
永山:今まではそうだったのですが、空き家活用推進事業導入後は、改修をしなくても、誰が改修費を負担するのか明記すれば、改修前の物件も登録可能となりました。
平野:空き家バンクに登録された物件は、所有者の方が責任を持って管理しているのでしょうか?
永山:家主さんが島外の場合は、島で何かあった時にすぐに対応できるように、島で数少ない不動産屋さんに仲介していただいています。
平野:離島では塩害による影響が家屋にあると聞いていますがいかがですか?金城:昔ながらの家屋に対しては、台風対策として建屋から1段下がっていたり、防風林があるのでさほど影響はありません。
空き家を多目的な場所として地域のために使うことで、認知度を向上させ、価値を創造する
平野:空き家の活用事例についてお伺いします。例えば宿やオフィスにしたりとか、そういう事例はありますか。
金城:私が地域おこし協力隊の時に古民家改修の広報活動などで関わっていたのが、「みーやプロジェクト」です。8年ほど空き家だった古民家を地元の青年団が中心となり、家主から借りて開墾から始め、地域のために多目的な空間として使うようになりました。
金城:例えば、ここは離島なので、雨が降ると子どもたちを遊びに行かせる場所がないんです。そこでママ友たちが集まって料理を作ったり、子どもたちの雨の日の遊び場として機能しています。
他にも地域の方々の集いの場所になっていたり、民泊制度活用で宿泊事業を行ったりなど多彩な用途があります。ここは島の人たちは会員制として、利用できるシステムになっています。
平野:多目的なスペースにするのは面白いですよね。
金城:そうですね。沖永良部島の特性でいうと、隣の与論島や沖縄と違い、まだまだ年間を通じて観光客が多く来るような場所ではないので、宿泊事業だけでは厳しいため、地域のために使うことで地域の方に認知していただき価値を創造する部分もあるんですね。
平野:なるほど、そうなんですね。そのほかにも活用事例はありますか?
金城:遊休施設でいうと、まちなかにある民宿だったところの2階をゲストハウス、1階部分を居酒屋の形にして運営し、賑わい創出に成功している事例もあります。
また、現在進行中の取り組みでは、遊休施設と単身者の中長期滞在施設の不足という2つの課題を同時に解決するため、建設会社の寮だった遊休施設をシェアハウスにするために改修しているところです。
人口減による空き家や空き店舗が多くなった島内の課題解決を目指し、みーやプロジェクトリーダーの市来氏が島リノベ合同会社を設立し、島の活性化につなげる目的で取り組んでおります。
平野:ありがとうございます。面白い取り組みで、いろいろと活用事例があるんですね。
メディアを活用し、クリックしたくなる魅力ある画像選定と、ターゲット層を絞り込んで移住者を募集することが重要
平野:えらぶ島づくり事業協同組合の方で求人募集をして、移住者の方が既に3名移住されて来ているとのことですが、移住された経緯をお伺いできますか?
金城:最初のきっかけは、オンラインで実施した移住体験ツアーでした。これは毎年実施しているのですが、今年はオンラインで実施しました。
金城:参加してくれた女性の方が、沖永良部島に興味を持ってくださって。「島暮らし体験住宅」があるのですが、そこに住む予定になっています。その流れで組合の話をしたら、「ぜひやってみたい」と言っていただきました。
平野:私の地元にも、もっとチャレンジしたい人が地域に来てくれたらと思っているのですが、どのようなアプローチをしたら良いのでしょうか?
永山:現在、移住スカウトサービスのSMOUTというメディアを利用しています。それまでは別の求人サイトに掲載しておりました。
以前は募集をかけてもあまり応募がなかったのですが、SMOUTを利用してからはたくさんの方に興味を持ってもらえました。SMOUTには夢や思いを持っていて、移住したい都会の方が多く集まっていると思います。
その地域の特性に合ったメディアに出会って、掲載することで上手くいく場合があるのではないかなと思います。あとは、求めるターゲット層を明確にすることも重要だと思います。
年齢層がどのくらいで、どの辺に住んでいて、どんな思いを持っているのかとか。そうすると、その人たちがどこにいるのか分かってくるので、アプローチしやすいと思います。
金城:求人募集も見てもらえないと意味がないので、求人募集の際に使用するトップ画像を目を引くものにすると良いと思います。その地域の魅力が一目で伝わり、思わずクリックしたくなるような写真やキャッチコピーです。
金城:例えば沖永良部島であれば、「行ってみたいな」と思える島の写真として、有名な洞窟の写真をトップ画像にしています。さらに、募集に際して記事を3つ書きました。
島での「働き方」と「暮らし方」、それと「遊び方」に関する記事です。通常の求人募集の仕事内容だけではなく、その地域に移住したら、どんなライフスタイルを楽しめるのかを具体的にイメージしてもらえるような記事を作成しました。
楽しく暮らしながら、自然の中でチャレンジできる環境に触れてもらい、少しずつ島の魅力を体験してもらうことが移住促進の秘訣
平野:ありがとうございます。ターゲット層に訴求力のあるアクションが重要なのですね。今後、島にどんな人に来て欲しいですか?
金城:今の仕事やライフスタイルに疑問を持っていたり、やりがいを感じなかったり、生きづらさを感じている人に来て欲しいですね。
生きづらいとか苦しいとか、何を自分が求めているのか分からなくなったりとか、迷っている方も多いと思うんです。豊かな自然の中で、思いっきりチャレンジできる環境が沖永良部島にはあります。
私自身、平日は組合の仕事をしていますが、土日になると海のアクティビティのツアーガイドもやっていたりします。まさにマルチワーク的な働き方です。
平野:沖永良部島は本州から結構離れていますよね。移住する際に決断力や勇気がいるのではないかと思うんです。相手の気持ちを汲み取り、安心させるような言葉ってありますか?
永山:移住相談の際に「この町にはそんなに重い気持ちで来なくても大丈夫ですよ」と伝えています。
「島暮らし体験住宅」に住む方には「1年間お試しで住んでみて、○か×かを判断してください」とお話しします。その上で、もし『ここで暮らしたい』と思うのであれば、次の住宅を一緒に探します。
過去に応募してきた方も構えているわけではなかったので、ぜひ、気軽な気持ちで相談してきて欲しいですね。
結び-Ending-
さまざまな環境が整いつつある沖永良部島、和泊町。特定地域づくり推進法によって、新たな働き方の創出につながっていくと思います。
また、状態の良い空き家も多いということで、移住されてくる方にとっても安心できる環境なのではないでしょうか。
これから移住されてくる方もどんどん増えてくるのではないかと思います。今後の和泊町の動きにも注目です。
■企画・著作
町おこしロケーションタイムス編集部
【取材データ】
2021.08.17 オンライン
【監修・取材協力・資料提供】
・金城 真幸 様
・鹿児島県和泊町役場
永山 みさ子 様
・吉成 大 様
・みーやプロジェクト
・沖永良部ケイビングガイド連盟
【グラフィックレコード】
・中村 沙絵 様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。