-まちの取組-
今回は愛媛県砥部町役場に
お話を伺いました
地域住民との関係性をセンス良く築くことがまちで幸せに暮らす秘訣に
〜都市部のベッドタウンと呼ばれるまちが県外移住希望者を増やすためにできることを考える〜
愛媛県砥部町
2022年の10月、まだ暑さが残る都内の東郷記念館で行われたマルシェイベントでまちのPR活動や物販を行っていた愛媛県砥部町。焼き物の里として有名ですが、まちの視点からみれば美味しい食べ物やお酒、観光スポットや人情豊かな地域の人の暮らしを伺うことができます。
行政は空き家対策に地域おこし協力隊制度を活用して着任した外部人材が地域外からの客観的視点で地域課題やまちの魅力を伝える取り組みを行っています。
今回は愛媛県庁から役場に2022年度から2年間出向されている高須賀 奈央さん(砥部町役場 企画政策課)に伺った都市部からの移住者呼び込みやまちのプロモーションを中心としたお話をお届け。地域外からみた客観的視点がまちにどのような影響を与えるのかについて迫っていきます。
人口急減地域で重複業務を行いながらも地域住民と信頼関係を構築し地域事業を推進する
人口20,164人(推計人口:2023年7月)、面積101.59㎢の砥部町。隣接する松山市からの人口流入が多いものの、中山間地域の人口減により町全体の人口は減っている。
どこの地方自治体でも同じことが言えるが、人口減少地域となっても自治体職員は重複業務に追われて忙しい印象がある。砥部町役場も高須賀さんの所属する企画政策課の業務について伺ったときもそのように感じた。
「私は基本的には、地域振興係で業務に当たっておりますのでそちらからお答えします。 そこでは移住対策や空き家の活用法、そして、他にもプロスポーツの振興、ふるさと納税や地域公共交通に関することなど様々な業務をしています。
また、地域の自治会長さんが集まる区長会という組織があるんですが、その際、企画や施策についての取りまとめを行っています」(高須賀さん)
愛媛県砥部町企画政策課 高須賀 奈央さん
愛媛県庁から、2022年4月に砥部町に出向。企画政策課の業務に携わる。中学・高校を香川県高松市で過ごし、大学から愛媛県に在住。
役場在庁に留まらず、現地へ赴いて住民の声に耳を傾けて地域の課題や企画について意見交換をする。このような業務を繰り返しているからこそ、自治体職員は地域からの信頼を得て地域事業を推進しているのだろう。
行政と住民とは違う角度から視点を持った考えが地域に刺激を与えるために都市部の移住希望者をマッチングさせる必要性
砥部町は空き家対策や移住者促進に対する支援業務として地域おこし協力隊制度を活用して都市部からの人材を移住という段階を組んで持続的に活動している。その理由としては、自治体が空き家問題に取り組みながら地域と行政の間に立った中間支援的な立場で外部人材を安定的に活用することが大きなポイントだということだ。
行政と住民とは違う角度から視点を持った考えが地域に刺激を与えるため期待したいというのが行政としての考えだという。しかし、都市部からの移住者をマッチングさせるための協力隊制度活用に関して試行錯誤されている。それは何故だろうか。
「砥部町には地域おこし協力隊として移住していただける方がしばらくおりませんでした。募集はかけてはおりましたが、 四国内や愛媛県内の他の地域での活動希望者も多く、砥部町への応募もありましたが、他の地域との面談も同時で行っていることがあり、レスポンスの関係でマッチングできないことが続いていました。
協力隊については、3年以上採用していない期間が続いていましたが、令和5年6月から1名採用に至りました。
業務内容としては、町内の空き家の掘り起こし、空き家バンクの運営を主に担っていただいております。将来的には、砥部町への移住を考えている方へのアドバイス等を行う移住コーディネーターになっていただきたいと考えています」(高須賀さん)
空き家の再生とお試し移住により定住人口を増やしたい行政の思惑とまちの魅力を伝えること
ところで砥部町の空き家の状況はどうなっているのだろうか?すぐに住める物件や損傷箇所が多い物件など様々であるが、高須賀さんの話では約400戸近くの空き家が砥部町内にあると言われており、去年の外観調査では損傷がそんなに激しくないと思える物件は 280戸だと言う。
砥部町としてその空き家課題に取り組む理由は理解できたが、ゴールとして設定している目標は何だろうか。地域外の情報収集についてどのぐらい行っているかも気になるところだ。
「まちの課題としてあるのは人口減少です。空き家バンクを活用することはもちろん、人口減少を食い止めるために空き家を減らして、人口を増やすことを大きな目標としています。
また、人口を増やすための入り口としてのまちの暮らしに触れていただくためのお試し住宅があります。 1ヶ月間無料で光熱費のみ負担いただいて砥部町に住んでもらう取り組みです」(高須賀さん)
しかし、この取り組みは現在住まいを提供するだけの形になっているという。まちを知ってもらうための取り組みまで進んでおらず、ターゲットとする県外の人向けにどう呼びかけていくかが課題であるという。
「本来は県外からの移住を希望される方に利用していただきたく思っていて、県外の方が初めて砥部町に来てもらってお試し住宅を提供し、いかに砥部町の魅力を伝えていくかが重要です」(高須賀さん)
行政がターゲット層とする県外移住者よりも近隣地域からの転入者が多いことにより起こる課題
県外の人たちに砥部町を伝えていくためのプロモーション。地域外の事例を参考にしながら今後も力を入れていきたいという。
地域移住で大事なことは、移住者と地域の人たちとのコミュニケーションを取れる場を作ることであるが、いきなり物件を買って住むことは勇気がいるだろう。お試し住宅と連携したステップがあっても良いのではと思うがどうだろうか?
「実は意外にもすぐに住みたい方がいらっしゃるんです。一般的には移住まである程度の段階があった方がいいと思いますが、県内の方が転入希望される方が多くてなかなかお試し住宅を利用していただくことには結びつかないのです」(高須賀さん)
なるほど。県外の人よりも隣接する松山市といった身近な地域に住む人のほうが砥部町に目を向ける人が多い状態である印象を受けた。行政の施策として都市部向けの発信にも力を入れる必要があるが、地域企業や団体にも自発的にインターンシップや体験学習として都会の若者をターゲットに呼び込む仕組みがあっても良いのではないかと考える。
ターゲット層の絞り込みのバランスを考えながら、まちに住むことによって得られる優位性をプロモーションする
ところでいざ現地に移住するために空き物件を買いたいと思っている人の中には、ただスローライフを送るために静かに暮らしたい人と、地域住民と交流しながら楽しく暮らしたい人の2つに分かれると思うのだ。前者の場合だと行政の思惑とずれてミスマッチが起きてしまう可能性があるが何か対策はあるのだろうか?
「都会からの移住者だとミスマッチが起きやすいと思われますが、現状では近隣地域からの転入が多く、そういったミスマッチは起きていないように思います。ただ、安いから住みたいのではなくて『まちに魅力を感じて住んでもらいたい』形にしていきたいと考えています」(高須賀さん)
なるほど。まちの魅力を知ってもらうためには「伝えること」が重要であるが、地域住民の声をどう取りまとめてプロモーションしていくかが肝心。その中で自治体側として高須賀さんからみた砥部町の魅力ってどんなところだろうか?
「都市部の松山市からのアクセスが良い部分がかなり大きいと思っています。役場からも15分程度で松山市に行くことができますし、松山空港からも30分圏内です。
アクセスの良さだけでなく、松山市と比べて砥部町は自然が豊かで高校生まで医療費が無料だったりと子育てには最適な環境です。それ故に砥部町を選ばれる方も多いですし、子育て層が多くを占めている理由にもなります。
でも砥部町としてはターゲット層は幅広く設定していますし、子育て世代の方はもちろん、中高年齢層にも目を向けているので是非まちに住むことでこれらの優位性を伝えていきたいものです」(高須賀さん)
地域性を理解して地域住民との関係性をセンス良く築いていくことがまちで幸せに暮らし続けるポイント
砥部町は松山市から近いことからベッドタウンと呼ばれることが、まちに対するイメージとして浸透している。これは県外の人が目を向ける人よりも数十万人規模の松山市民がイメージを抱いている人のほうが圧倒的に多いことが想像がつく。
砥部町に限ったことではないが、自治体とまちに移り住みたい人の思いが必ずしも一致しているわけではない部分があってモヤモヤ感はある。しかし、結果的に人口が増えることになるため、県外からの移住希望者のためにも空き物件をどう提供していくかがカギであろう。その点についてはどうだろうか?
「そうですね、物件の問い合わせはとても多くて需要はとてもあると感じます。中でも人気がある物件としては価格の安い物件で400万円以下です。空き家バンクに登録している物件は少ないのでそこを何とかしなければなりません」(高須賀さん)
物件価格が安いこともまちへ移住を促す一つのプロモーションになると思うが、それ以前に地域住民とのコミュニケーションが大事ではないかと思うのだ。移住者も受け入れる地域も気を遣うところなので、所有者と購入者間で関係性を築いておくことが必要だと高須賀さんは話す。
砥部町の良さは地域住民同士の距離感がとても近いと話す高須賀さんは、メリットとしてもデメリットとしても捉えることができるという。人によってはある程度のディスタンスを保ちたい気持ちもあるだろう。そこは地域住民との関係性をセンスよく築いていくことが、まちで幸せに暮らすポイントになるのではないか。
助け合いの精神が浸透するまちに客観的視点を取り入れながら、まちの魅力を取りまとめて行政が伝えていくことで地域がどう変わるか
さらに砥部町で魅力的なことは距離感が近い住民同士がモノを贈り合ってコミュニケーションを取ることが多いそうだ。これは何かあった時に助け合える共助の精神にもつながるだろう。そして豊かな暮らしを送るために程良い距離感を維持しながら交流を深めていくことができれば良いのではないかと思う。
「砥部町は、山とまちが近い距離にあるので、すごくコンパクトな暮らしができるという声が多いです。行政のサービスもきめ細かな対応に努めて住民側が手続きをスムーズに行えるよう配慮しています。そして、住民同士の距離も近いので、みかんや農作物、ジビエなどと言った物々交換ができる関係性を築くことができるんです」(高須賀さん)
地域の人柄の良さも滲み出ているようでここもまちの魅力だ。そんな部分に都会の人が触れられるとしたらどんなに素敵なことだろう。地域の人が生活や仕事をしている様子は当人から見ると当たり前に思えるかもしれないが、地域外の人にとっては魅力に溢れる姿に見えたりする。
そう言った客観的視点を取り入れながらまちの魅力を取りまとめて行政が伝えていく必要があるのではなかろうか。都市部から近く、自然に溢れる人情豊かなまち砥部町。今後、まちはどのような形で力を入れていくのだろうか。
「今はSNSを用いて町内の人に向けて情報発信をメインにしている状態です。これからは町外の人向けにも情報発信を検討していくことになると思います。どういう人たちをターゲットにして、現在の取り組みを踏まえながら、プロモーションに力を入れるためにメディアやSNS媒体を活用して町外の人向けに情報発信をしていくことを考えても良いのではと個人的には思ってます」(高須賀さん)
地域住民が一つずつ違った魅力を伝えることができれば多様性のあるプロモーションができる素敵な地域に
地域の魅力発信は今後も試行錯誤が続くと思われるが、何よりも砥部町の地域活動や市民団体の人たちとまちへの転入者を繋ぐ必要があり、そこから異色な者同士がまちを面白くするために何かを企むことで盛り上がることができれば、結果としてこのまちに住む人たちがずっと誇りに思える場所になるのではないか。
また、情報媒体となるメディアを活用して地域内外にまちで起こっている出来事を伝えていくことで、まちに興味を持ってくれる形づくりにより交流人口を育てることができるはず。高須賀さんはさらにこう話す。
「まちのプロモーションは行政が主体的になるよりも移住・定住やまちづくりをメインで発信されているメディアが広いターゲット層に向けて情報発信されたら目に留めていただく機会が増えるのではと思います。
砥部町は医療費の無償化や、子育て世代に向けた施策もどんどん改善している段階です。 私が砥部町を外から見た視点で申し上げますと、自然が豊かで、『のびのびとした環境で教育を受けさせたい』親御さんのご希望に応えることができるまちです。そんな砥部町の魅力に触れていただけたら嬉しいです」(高須賀さん)
高須賀さんは砥部町外の人である。町外の客観的視点とまちの人の主観的視点の融合により隠れていて分からなかったまちの魅力が発見できるのではないかと思う。しかし、まちに関わる全てのひとが一つずつ違った魅力を伝えることができれば多様性のあるプロモーションができる素敵な地域になるのではと考えている。
結び-Ending-
ライティングをする際、コンテンツを空き家かシティプロモーションのどちらに舵を切るべきか考えるよりも、どこを省いてどこを残せば伝えたいことを相手に届けられるか優先するべきと思い試行錯誤していました。
そう考えると地域内外にまちのことに興味を持っていただくための認知って凄く大事だと思いますし、今回書かせていただいたことも読者を惹きつけるポイントと共通することもあり、プロモーションって大事だなと気づくきっかけになってとても学びある場になりました。
これからも砥部町の応援をよろしくお願いいたします!!
■企画・著作
工藤 菜穂(Naho Kudo)
過去より今。今より未来にワクワクする人生にするために
インプットとアウトプットを繰り返し、
将来は女性選択肢が増える社会づくりと、
地方・地域の魅力発信のブランディングをしていきたい。
【取材データ】
2022.11.17 オンライン取材
【監修・取材協力】
愛媛県砥部町企画政策課
・高須賀 奈央様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。