2020年11月28日、「南三陸町応援オンラインイベント-ワカメワークショップ・ふりかけ体験&今の南三陸町を知ろう-」が催行されました。
『NPO法人フェローズ・ウィル』主催によるオンラインイベントで、同法人は毎年、宮城県南三陸町でボランティア活動を行っていますが、今回のオンラインでの取り組みは初めての試みです。
このイベントでは自宅で今の南三陸を感じながら、楽しいふりかけ体験をするとともに、東日本大震災からまもなく10年経つ南三陸町がどのように変わったのか。また、これから私たちはどのように現地を応援することができるのかを見出せる内容でした。
NPO法人フェローズ・ウィル代表の我妻 慶里さんのあいさつに先立ち、現地の進行は2012年に海産加工物ブランド「たみこの海パック」を立ち上げた阿部民子(以下、たみこさん)さんと南三陸町にお住いの井口さんのお二人により南三陸町の今を伝えてもらいます。
オンラインイベントで地域とつなげる
我妻 慶里さん:私たちNPO法人フェローズ・ウィルは2011年から活動しているんですが、今年はコロナ渦の中、ボランティア活動も難しく、皆さんの意向もあり、何とか地域とつなぎたいと思っていて、いろんな思いと思いが重なって、今回のオンラインツアーという形となりました。
我妻 慶里(Wagatsuma Keiri)さん:※NPO法人フェローズ・ウィル 代表理事/宮城県出身。東日本大震災をきっかけにNPO法人を立ち上げ、南三陸町を中心に精力的に支援活動を行っている。
※NPO法人フェローズ・ウィル
我妻さん:この一年で南三陸町も大きく変わってきているので、画像を見ながら現地の様子に想いを馳せていただき、たみこさんの企画でもある「ふりかけ体験」をみんなでリモートという形でつないで、場の共有ができればと思っています。
それでは現地の『たみこの海パック』のたみこさん、井口さん、よろしくお願いします。
東日本大震災当時のボランティアの支えが大きな原動力に
たみこさん:皆さん、こんにちは。今日はフェローズ・ウィルの応援をいただいて、「ふりかけ体験」というワークショップを開催することができました。
私たちの活動も、やはり震災で当時ボランティアの方々からの励ましもあったからこそ続けてこられたと思っています。今日は楽しいワークショップになればと思っています。
それではスタッフの井口から、震災から10年を迎え、復興に向けて動いている様子を伝えてもらいます。
写真右>阿部 民子(Abe Tamiko)さん:※たみこの海パック 代表/山形県出身。嫁いでからは南三陸町に住んでおり漁業に携わる。震災後は海とどのように関わっていくか模索し、おいしい海産物を届けたいという思いから海産加工物ブランド『たみこの海パック』を立ち上げた。震災から立ち上がった漁業者の想いも商品と一緒に届ける工夫もしている。
※たみこの海パック
写真左>井口 雅子(Inokuchi Masako)さん:たみこの海パック/東京都出身。震災後に、NPO法人フェローズ・ウィルのボランティアツアーに何度か参加し、Iターンで2017年9月に南三陸町に移住。たみ子の海パックのスタッフとして営業や広報を担当する他、漁業の活性化にも取り組んでいる。
井口 雅子さん:それでは今日は楽しいふりかけ体験が待っていますが、その前に、今の南三陸町の様子を紹介させていただきます。
定点観測から南三陸の復興状況を知る
今の南三陸町の様子が井口さんから伝えられた様子を以下にまとめた。
https://m-now.net/category/fixedpoint
南三陸のものがたりを紡ぐウェブメディア『南三陸なう』より
歌津地区
2017年 8月 大規模な工事が進められている
2020年 9月 工事が終了している部分も多い。
寄木漁港へは寄木橋を通って行くようになっている。
歌津・泊浜地区/平成の森
8.7mの防潮堤の工事は急ピッチで進められている。
2016年は平成の森に多くの仮設住宅があったが、今は公園や公民館が建てられている。
寄木地区
防潮堤が立ち始めている。そのせいで町の人からは海が見えづらくなるという悲しみの声も。
志津川地区
がれきの撤去が進んでいるのがよくわかる。
震災復興記念公園は2020年10月12日にオープンした。
面積は6.3ヘクタール、東京ドームでいうと1.3倍の大きさ。
公園内には震災の教訓を後世につなげようという願いから祈りの丘がある。
そのほか、『※さんさん商店街』と震災復興祈念公園を繋ぐ中橋も同公園と同じく2020年10月12日に開通。
中橋の設計はさんさん商店街の設計者と同じく隈研吾さん。八幡川をまたぐ長さ約80メートルの中橋には地元産の杉を多く用いている。
この公園と中橋はコロナ禍でも大きな影響を与えた。
さんさん商店街への来場者数が減少著しい状況だったが、公園と中橋の完成後は戻りつつあり、その他にも新たな公共施設や、商業施設も完成。
※さんさん商店街
認証取得により環境保全に取り組む
そして、特に注目したいのは『※FSC®認証』を取得している南三陸町役場庁舎や生涯学習センターだ。FSC®認証を取得したのは南三陸町が日本初。
※FSC®認証とは:世界中から参加する環境保全団体、先住民族や労働者の権利に取り組む団体、生産者や利用の立場にある民間企業など、環境・社会・経済の各分野のステークホルダー(利害関係者)の議論と合意によって運営され、また責任ある森林管理のための10の原則と70の基準を定めている。
また、戸倉・波伝谷地区は牡蠣で有名だが、2016年3月に『※ASC認証』を取得。FSC認証とASC認証。この2つの認証を取得しているのは南三陸町が世界初!さらに2018年10月18日にはラムサール条約に登録されている。
※ASC認証とは:産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖に関する国際認証制度で、自然環境の汚染や資源の過剰利用の防止に加え、労働者や地域住民との誠実な関係構築を求めている。
紙芝居で海藻の利活用を知る
たみこの海パックすぐそばにある海、戸倉の様子が紹介されたが一艘の船は震災後戸倉地区で唯一残ったたみ子さんの船で、当時の津波の高さは約16m、店舗のすぐそばまで上がっており、改めて震災の恐ろしさが伝わってきた(写真)。
また震災前と後では海の様子が変わったとのこと。震災前はゴミ一つなかったが今は台風の後などで、ごみ上がってくるようになったそうだ。
さて、たみこさんによる紙芝居で海藻の説明が始まった!普段私たちは当たり前のように海藻を食べているが、昔から海藻を食べるのは日本人が初めてである。
海藻は誰が取るの?いつ取るの?
海藻の収穫は春の時期。収穫は漁業権を持っている人だけ。一般人が海藻を収穫すると密漁になる。
また春になればいつでも収穫できるわけではない。
驚きなのが収穫解禁日の2月から4月の数回のみで収穫日は前日に伝えられ、当日は決められた時間内で収穫をする。
なぜ取り放題ではないのかというと資源を大事にするためだ。
海藻にはたくさんの栄養が含まれている
海藻には多くのミネラルが含まれており、ヨウ素・カリウム・カルシウム、そしてマグネシウムが含まれていて特にカルシウムが多い。
また、ミネラルは骨や筋肉の元ともいわれ、骨を強くすることができる。他にも美白効果、老化防止、水溶性食物繊維であることから腸内をきれいにしてくれる効果もある。
加工わかめの種類
加工わかめの種類は3つある。
天日干しわかめ:わかめ養殖が始まったころ主流だった加工だった。しかし天気に左右され、生産が上がらないことが難点だった。
塩蔵わかめ:塩をまぶして保存したもの。長持ちもし、乾燥わかめよりも生に近い食感を楽しめる。
乾燥わかめ:ボイルして乾燥する方法。塩蔵わかめよりもさらに保存性が高い。一般的にはカットわかめと呼ばれることが多い。
南三陸町のわかめの特徴
肉厚でシャキシャキっとしていること。収穫時は1~2m程のわかめが取れることも!
この食感の特徴を活かすため、たみ子の海パックでは塩蔵わかめを製造している。
南三陸町のわかめの作り
種付け・種とり
種はさみ 2.3センチに切る
風のない、穏やかな日に二人一組で種を一つずつ綱に差し込んでいく。11~1月には日光と海流で成長していく。 この期間で1mくらい成長になることも。
いよいよ2月。収穫の時期がやってくる。極寒の中夜明けとともに刈り取りが始まる。
刈り取ったわかめは次に雌株(めかぶ)そぎ、中芯をとる作業を行う。
ここで初めてめかぶはこんなに大きいものだったのかと知った方も多いのではないか。
塩蔵わかめになるまで
1.ボイル・冷却
収穫したわかめを90度の海水の入ったボイルがまで熱する。
その後冷たい海水で冷却する。冷やすことでわかめの鮮やかなグリーンが長持ちする。
2.塩蔵
塩とわかめが均等にまざるように塩をからめる。
3.漬け置き
一晩わかめを塩が浸透するように重石を置いて漬ける。(漬物と同じ要領で)
4.芯抜き作業
朝から晩まで品質の維持と向上のために芯抜き作業を行う。
これが本当に大変だとたみ子さんはおっしゃっていた。
5.脱水
圧力をかけながらわかめの脱水をする。
6.出荷
わかめの種付けから出荷までがすべて手作業。決して単価が大きいというわけではないが手塩にかけて食品となって出荷されるまでの大変さが伝わってくる。
ワークショップを通してリモートでも同じ時間が共有できる
さぁ、いよいよ待ちに待ったふりかけ体験!参加者へ送られてきたわかめは芯つきの塩蔵わかめ。ここでは芯抜き作業を体験する。ポイントは爪を使うことで、中芯の脇を爪を使って割き、下に葉っぱを引っ張るようにする。
中芯も食べられるようなので食べてみると・・・しょっぱい。そのため塩抜きして野菜炒め等に使うとおいしいそうだ。こりこりした食感がアクセントになりそう。
次にわかめをふりかけように細かく切って、袋にとろろこんぶ・めかぶ・海苔・香りおきあみ・ごまを入れ混ぜる。最後にたみこさん秘伝のたれを入れて混ぜ、パックに入れたら・・・完成!!!
完成したパックには自分でふりかけのネーミング作り。海のめぐみふりかけ、海の幸たっぷりふりかけなどいろいろな名前を参加者は付けていた。世界に一つだけのふりかけの誕生である。子供たちもワクワクしながら名前を考え、デコレーションすることに一生懸命だ。
待ちに待った試食はもちろん「おいしい!」との声がたくさん。ふりかけはごはん以外にパスタ、チャーハン、サラダ、お酒のおつまみにもなるとのこと。海藻は味噌汁のイメージが強いがいろんなものに使えるということを知ることができた。
質疑応答で参加者と交流できる楽しさでイベントを締めくくる
最後に主催者よりたみこさんと参加者の交流タイム。質疑応答の中から抜粋してお伝えしたい。
参加者(質問):たみこさんが使っていらっしゃる紙芝居がすごく分かりやすかったのですが、工夫されたことはありますか?
たみこさん:ただ話して伝えるだけでは印象に残らないかなと思って、インパクトが残ってもらいたいと思っていて、写真よりも絵がいいなと思っていた時に、スタッフに絵の上手な子がいて、キャラクターを使って漫画のように書いてもらったのですが、伝えたい部分を絵にしてもらいました。
参加者(感想):オンラインで離れた場所から、画面越しではありますが、マスクをしないでたくさんの人と手を動かしてふりかけを作りながら同じ時間を共有するということがすごく楽しくて、こういうつながりのあり方も全然アリだなって思いました。
参加者(質問):海藻の風味が活かされているふりかけのたれに秘訣があると思うのですが?
たみこさん:たれはですね、塩蔵わかめのしょっぱさがなくなるように、何回も試行錯誤を繰り返して、ちょうど良い風味に仕上げるのが大変でした。市販のふりかけとは違った美味しさを味わっていただけると思います。
編集後記
ふりかけ体験を楽しみつつも知ることが出来た南三陸町は、まもなく東日本大震災から10年。長かったようであっという間。少しずつ前を向いて進み続けている南三陸町を今まで以上に応援したい、現地に行きたい、そう感じたオンラインツアーだったのではないかと思います。
このツアーの参加者の中にいた子供たちは震災の時に生まれていない子もいるわけで、そんな子供たちも南三陸町、震災を深く知る良い機会になったのではないかと思います。
今回はオンライン上での交流となりましたが、いつかこのイベントに参加した方たちが直接会って交流できる日が来ることを強く願っています。
この記事を読んでくれた皆様が南三陸町に興味を持ち、応援したいという気持ちになっていただけたら嬉しいです。
Writer:菊地 彩那(Kikuchi Ayana)
明海大学 ホスピタリティツーリズム学部在学(2020年12月現在)。 大学ではホスピタリティ業界について幅広く学んでおります。
【取材データ】
2020.11.28 オンライン取材
【取材協力】
・NPO法人 フェローズ・ウィル
・たみこの海パック
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。