-Local Report-
今回は宮城県南三陸町での
お話をお伝えします!!
日本初のASC国際認証を得た「戸倉っこかき」の魅力!
~地域愛あふれるプレーヤーの主体性あるストーリーとは?~
宮城県南三陸町
2011年3月11日に起こった未曾有の大震災「東日本大震災」から10年以上経った今でも、東日本で復興を頑張っている人たちがいることを忘れずに、自分たちにできることをしていきたいですね。
今回は、東京から南三陸町へ移住をして、地元の漁師の方々と頑張る井口雅子さんと南三陸町移住・定住支援センターが送るオンラインイベントをお届けします。
世界初!森と海の豊富な地域資源が二つの認証制度取得に
今回で3回目となる南三陸町移住・支援センターが主催している南三陸町に移住された方が先生となり、移住体験に加えて色んなことを教えてくれるシリーズイベント企画「RivaRivaみなみさんりく学園~移住者に〇〇教わってみた~」。
東京から南三陸町に移住をした井口雅子さんに、南三陸の森と海の地域資源のお話と牡蠣生産者の取り組みを伺いながら地域ブランド牡蠣「戸倉っこかき」を参加者とともに味わいました。
今回の目玉となるのは、「戸倉っこかき」の牡蠣剥き体験ができる内容です。「牡蠣こそ鮮度が大切なのでは」と思っていたのですが、水揚げ、浄化されてすぐに発送されているため、鮮度が高い状態で自宅まで届きました。
まさか家で牡蠣を剥く体験ができるとは思っておらずワクワク感もいっぱい。漁師直送の鮮度で食べられるよう事務局の方の丁寧な対応に感謝です。
牡蠣剥きセットの中には、事前オーダーしておいたパック詰めされた牡蠣とまだ剥かれていない牡蠣が入っており、その他にも牡蠣剥き用の小型ナイフ・軍手が同梱。
まず初めに南三陸町移住・定住支援センター の及川さんから南三陸町についてどんなまちなのかをお話いただきました。
写真右>及川 希(おいかわ のぞみ)さん: 南三陸町移住・定住支援センター (株式会社 Pallet)/移住イベントなどでまちの外とのパイプ役を担う。地域外の人が思う南三陸町のイメージを大切にしつつ、まちの魅力ある暮らしや仕事を伝えることで南三陸の「好き」を醸成するコーディネーター。
「南三陸町」は人口12,200人弱で、仙台市から北東へ100キロ。三陸海岸南部に位置する町で、かつて奥州藤原氏ゆかりの地域です。
まちは森と海の豊富な資源に恵まれ、森林は森林管理協議会(Forest Stewardship Council)が管理運営する森林に関する国際認証制度(FSC認証)、海は水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖に関する国際認証制度(ASC認証)という自然環境および地域社会に配慮した責任ある持続可能な取り組みに与えられる国際規準の二つの認証を一つの自治体内で取得した世界初の事例を持つ町で、「森里海ひと いのちめぐるまち 南三陸」という将来ビジョンを掲げています。
震災前の姿を取り戻そうと、地域のためにチャレンジし続ける南三陸町は本当にすごいと尊敬します。
井口さんは、海が好きで一時は磯焼け対策の調査も行っていた中で漁業支援ボランティアを通して南三陸町に関わり、漁師の皆さんの頑張る姿に魅了されて移住をしてきたそうです。
しかし地域の養殖産業のほとんどが手作業で、それに相当する対価が見出されていないことと、年々漁師の数が減ってしまっている現実を知り、「どうしてそうなってしまったのか」という気持ちも抱いています。
まちの面積の8割を占める森林からの恵みを受ける牡蠣が、震災後に新たな生育方法を創発
及川さんの南三陸町についてのお話の後は、井口さんから紙芝居を使って、南三陸町の養殖牡蠣についてお話しいただきました。南三陸町は、町の8割が森林で町境は全て分水嶺となっており、町内の川は全て志津川湾に流れていきます。
井口 雅子(いのくち まさこ)さん:たみこの海パック 職員/東京都出身。震災後に、NPO法人フェローズ・ウィルのボランティアツアーに何度か参加し、Iターンで2017年10月に南三陸町に移住。たみ子の海パックのスタッフとして営業や広報を担当する他、漁業の活性化にも取り組んでいる。
南三陸町の牡蠣は川と志津川湾の海水が交わる汽水域で養殖されており、山の栄養分をたくさん含んだ水から栄養を吸収して美味しい牡蠣が育っているそうです。ただ、汽水域で養殖する牡蠣の養殖棚の数が過密になっていることが課題としてありました。
震災前は生産量を追い求めすぎて、牡蠣を育てるために使われている「いかだ」が目一杯、漁場に並べられていましたが、それにより汽水域は「栄養と酸素不足」に。
その上、汽水域の海底に蓄積した牡蠣の排泄物で海が汚れてしまっている状態。そんな中で起きた東日本大震災により町の60%が津波により流出する甚大な被害を受けてしまいました。
多くの爪跡を残していった震災でしたが、津波は海に堆積されていた汚れも全て流したため震災からしばらく経つと漁師さん達は「過密状態では見られなかった魚も戻り、本来の生態系が蘇った」と気付くなど、豊かな自然環境が志津川湾には戻ってきたとも言います。
津波によって養殖施設をすべて失い、ほとんどの船を失った漁師の皆さん。まずは「がんばる漁業」という漁業復興支援事業のもと、一丸となって漁業を再開し始めました。
震災後に覚悟をもって漁場改革を行い、出荷数よりも生態系を大切にしながら個体の質を追求することで美味しい牡蠣が生み出される
とはいえ、漁師はそもそもが個人事業主のため、共同で養殖を行うこと自体が初めてで大変なことが多かったそうです。
漁師さんの頭を最も悩ませたのは、「蘇った豊かな海を維持しながらの牡蠣の養殖」で、そのためには今までの養殖棚の規模を1/3に縮小する必要がありました。
被災した作業場、家や船に投資をする勇気と覚悟が必要だという時に「養殖の規模を縮小したら収入が減ってしまうではないか!」という声が大半だったそうです。
不安を抱きながらの再出発でしたが、当初、生産量が減ると考えられていたことに対して驚きの結果が。なんと、今まで商品化できる大きさになるまで3年を要した牡蠣が、たった1年で育つだけでなく生産量が震災前より増えたのです。
その理由としては、個体が過密状態ではないため十分な栄養が一つひとつの牡蠣に行き渡る環境で育つことによる成長の加速でした。牡蠣は排卵による身の消耗を避け、早いタイミングで水揚げができるほど身が若々しく、プリッとして美味しいそう。実際に今回、南三陸町から届けられた牡蠣も1年モノになります。
求められるのは生産者のウェルビーイング向上。海の環境を守りながら担い手を育み続けられる姿とは
牡蠣の養殖棚を減らしたことで、海の環境を守ることだけでなく、漁師さんの働き方も大きく変化。一つ一つの牡蠣の身が大きくなったため、牡蠣を剥く個数が減ることで以前のような長時間作業も減り、過酷な労働環境が改善。
漁師さんたちは働き方に余裕ができたことで、牡蠣一つひとつへの手入れができるようになり、今まで以上に美味しい牡蠣を育てることができるようになったそうです。何よりいちばんの喜びは、若い担い手たちがまちに戻ってきて漁師としての誇りとやりがいを持てるようになったことでした。
今までは、人の手をどれだけ加えても状態が良くなることがなかった牡蠣が、漁場改革という大英断により、改善や生産者のウェルビーイングを高めることにもなっています。
その他にも養殖で使われる備品のブイやロープ、いかだの消耗が減ったり、過密養殖状態が解消されたことで、嵐や台風などによる被害も大幅に減りました。
そういった好循環の中で、南三陸町の戸倉牡蠣生産部会の漁師の皆さんはASC国際認証の厳しい審査基準である7原則125項目をクリアし日本初で認証取得。
牡蠣の品質や生産性の向上、労働時間の短縮といった優れた取り組みが高く評価され、2019年には農林水産祭で天皇杯も受賞しました。漁師の皆さんの試行錯誤と努力の賜物ですね。本当に素敵です。
ASC国際認証を獲得した牡蠣で牡蠣剥き体験。これが獲れたて直送の〝戸倉っこかき〟の魅力
ここまで、「戸倉っこかき」がASC国際認証を取得するまでの葛藤や物語を聞いてきて、生産者の想いを知って食べる食材の味は一味違うだろうなと感じながら牡蠣剥き体験へ。
殻付き牡蠣は人の顔ほど大きなサイズ。見た目だけで迫力があり、沢山栄養を含んで大きくなったことが想像できました。殻付き牡蠣を5つ新聞紙の上に広げて、牡蠣剥き用の小型ナイフで牡蠣の殻を剥がしていきます。
層になっている牡蠣の殻の隙間に牡蠣剥き用の小型ナイフを差し込んで貝柱を削ぎ落すようなイメージで貝を開きます。キッチンバサミなどを用意すると便利と教えていただきました。私はせっかくならとキッチンバサミは使わずに挑戦。
コツを掴むまでは難しかったですが、最後の2つはスムーズかつ美味しそうに剥けて大満足です。参加されていた方の中には、牡蠣剥き体験をしたことがないお子さんもいて家族で楽しそうに剥いている姿からもこのイベントの魅力を感じました。
全て剥き終わったあとは、さっと水洗いをしてそのまま頂きました。殻付き牡蠣は、殻をお皿にして食べるのが定番ですね。写真映えもします。生でレモンやポン酢、お醤油をつけて食べたり、レンジで蒸して蒸し牡蠣にして食べるのも美味しいそうです。
井口さんからは、ホワイトソースとチーズをかけてオーブンで焼くのも美味しいと教えていただきました。とても美味しそうですね。今回は挑戦できませんでしたが、次回牡蠣を食べる機会があったら試してみようと思います。生で食べてもクリーミーで生臭さもなく美味しかったです。
牡蠣の貝ひもに当たる「びりんこ」がシャキシャキしていて、鮮度の高さを感じました。お店でしか牡蠣を食べたことがなかったので、身の大きさや、海そのものを食べてるような牡蠣特有の風味、それに食感が合わさり、南三陸町の牡蠣が本当に美味しいことを体感することができました。
結び-Ending-
2019年以降流行り出したコロナウィルスをきっかけに、旅行がしづらい世の中になりましたね。なかなか南三陸町をはじめとした被災地へ訪れることが難しくなっている中で、今回のオンラインイベントを通して魅力に触れられる機会があるのが素敵だなと感じます。
海が好きという想いや漁業に関する様々な課題を感じ、移住を決断し今も活躍されている井口さんの姿にもとても感銘しました。南三陸町に住んでいる人も、住んでいない人も、全員で復興のための活動に取り組めたら素敵だと思える取り組みでした。
■企画・著作
工藤 菜穂 (Naho Kudo)
過去より今。今より未来にワクワクする人生にするためにインプットとアウトプットを繰り返し、将来は女性
選択肢が増える社会づくりと、地方・地域の魅力発信のブランディングのお手伝いをしていきたい。
life is design.常にクリエイティブに。
【取材データ】
2022.02.26 オンライン取材
【監修・取材協力】
・南三陸町役場
・南三陸町移住・定住支援センター
・たみこの海パック
・井口 雅子様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。